小説

『決闘の予言』ノリ・ケンゾウ(『逆行』太宰治)

 馴染みのバー「シゲ」の常連が集まって行われる新年会で、オサムは予言を受ける。あなたは決闘をすることになると言われる。しかも勝ち目はほとんどない、というか、それは言葉を濁してあるだけで、つまり間違いなく負けるのだという。いやいや決闘って、そんな馬鹿な、西部劇じゃないんだから、とオサムはヘラヘラと常連客の面々に笑いかけるが、客はみな揃いも揃って顔面蒼白になっている。オサムはぞっとして、この人そんなすごいの? と、目の前に座っている自称予言者の老婆のことを尋ねると、うんうん、とまた皆がそろって頷いて、常連客たちはオサムに次々と自分の体験談を話し出す。
 私はこの人の予言で結婚したからね。
 うそ。
 俺は株で大損したよ。
 まじで。
 私なんかね、宝くじが当たったのよ。
 いくら? 
 十万円。
 そこそこすごいけど、でもそれ、当たるときは当たるんじゃない?
 いいや、この人金額も当てたのよ。
 あちゃ、そりゃすげえ。
 などと話をしながら、オサムは段々と怖くなってくる。ちょっとばあさん、それで俺はさ、何をするのよ、その決闘って、と少し狼狽した様子のオサムに、老婆が手のひらを差し出す。何? 百万円。百万円? それ以上知りたかったら、お金ちょうだい。あるわけないよ百万なんて。じゃあダメだ。おい、頼むよばあさん。うそだよ。え。うそ、あたしゃ分からない。なんだ嘘か…じゃあなに、決闘もないの? それはある、何の決闘するかまでは知らん。なんだよそれ……
 オサムは分かりやすく落胆して元の席に戻った。バーのマスターであるシゲさんに、慰めでハイボールを一杯サービスしてもらう。ねえ、なんなのあのばあさん、とオサムが嘆くと、予言者だよ予言者、とシゲさんはにやにやしながら言った。楽しそうに言うね、とオサムは半ば諦めたように言い、ちびちびとハイボールを飲んだ。

 オサムは都内の印刷会社で働く会社員であった。働き始めてまだ二年目。それなりに忙しく働いている。
「決闘か……」
 と呟き、カレンダーに予定を書き込みながら、オサムは決闘の予定はいつに入っているのかと思いを巡らしている。
「え、何? どうしたの」

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