ふと目を開けると、そこは懐かしい子供部屋だった。そこいらに車やら何かのヒーローの人形やら、大量のおもちゃが散らばっていて、ともすれば踏んづけて壊してしまいそうだ。窓は大きく開いていて、カーテンが風に吹かれてふわりと舞う。薄く白いカーテンが夜の闇にオーロラのように溶ける。刹那、窓の方からがたり、と音が聞こえる。弾かれるようにしてその方向を向くと、窓辺に緑色の服を着た白髪の少女が座っていた。
「こんばんは」
彼女はゆっくりと口を開いた。月並みではあるけれど、鈴の音にも似たとても綺麗な声だった。まるで世の女の子達の理想の全てを詰め込んだような美しい顔が僕の顔を覗き込む。
「ねえ、大丈夫? 聞こえてる?」
「えっ? あ、あぁ、ごめん……」
口ごもりながら大丈夫、聞こえてるよ、と答える。だいぶぼんやりしていたらしい。しかし、どうしてこんな夜中に、窓辺なんてとても出入りには向かないようなところから、彼女はこの部屋に来たのだろう。
「一緒に行こう。私についてきて」
そう言うと、彼女は何でもないことのように窓枠の外に足を踏み出しーーしかし落ちることはなく、逆に上へと浮かんでいった。信じられない、と目を見開いていたら、彼女が上の窓枠からこちらを覗き込んできた。大丈夫だから、おいで。
「待って!」
その言葉につられるように、僕も窓から飛び出す。そのまま僕の体は地面に無残にも叩きつけられるーーということはなく、彼女と同じようにふわふわと宙に浮いていた。自分から行ったとはいえ、あまりにも信じられない光景に絶句していると、先に空に立っていた彼女が口を開いた。
「私の名前はナイア。あなたは?」
「僕は……僕の名前は創。よろしく、ナイア」
「うん、よろしくね。そしてようこそ、夢の国ーーネバーランドへ! 」
ナイアに連れられて、僕達は窓から外へゆっくりと降りていった。降りた先はなぜか見知った住宅街ではなく、煌々と明かりの灯る店が立ち並ぶ洋風の商店街のようだ。お菓子屋らしい店のショーウィンドウを除けば、近所では見ないようなカラフルなお菓子が所狭しと並んで飾られている。そのうちのいくつかは発光しているようだ。都会暮らしでも、さすがにそんなお菓子は見たことがなかった。こんなもの、食べ物をやたらと色鮮やかにしがちなあの国でだって見つからないだろうな。
「そのお菓子、気になる?」
見透かされたように聞かれた。どう答えるか逡巡しているうちに、彼女は僕を店内へ引っ張っていった。子供っぽいと思われているのだろうか……。
「……ちょっと待って、お金はどうするの?」
僕達はーー僕だけかもしれないがーー今は無一文だ。そんな状態で物は買えないはずなのだけれど……。
「心配ないよ」