小説

『夢の国からの追放前夜』草餅(『ピーターパン』)

曰く。昔々にあった、とある国で生まれたとあるおとぎ話。その中に登場する子供達だけの夢のような楽園、ネバーランド。その国を模して作られた世界が僕の今いる「夢の国」。その由来に違わず、この世界は子供達のためだけに創りだされた。……大人になることが叶わなかった、子供達のために。
大人になることが叶わなかった子供達。その言葉の真意に気がつかないほど、僕は惚けていなかった。でも、そうだとしたら、現にここに招かれたということは……。
「もしかして、僕は」
死んでしまったのか。
それを自覚した途端、頭が朦朧としてきた。随分と気がつくのに時間がかかったものだ。ふわふわとして、立っているのが辛い。崩れ落ちそうになったところを、ナイアの白い手が助けた。その瞬間、はっきりと意識が戻ってきた。
「大丈夫、大丈夫だよ」
その時に見えたナイアは、確かに泣いていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい創」
泣きながら謝罪の言葉をただ繰り返し呟く彼女は、酷く小さく見えた。そしてそのまま、地面に座り込んでしまった。眩しいまでの明かり達は、随分と弱まっていた。そしてそれに反比例するように、空が白んできていた。夢の国にも朝は来るらしい。
「ナイア、僕……」
「いいの」
僅かにしゃくりあげながら、遮った。
「まだ、間に合うから……案内もする。だから、帰って。……あなたにとってここは、ただの夢の国だから。夢は、いつか終わるものだよ」
そう言い切るや否や、彼女の後ろにどこからか白い大きな門が現れた。
「この門をまっすぐ進めば、戻れるよ。」
「ありがとう。……もう、ここには来られないのかな」
「多分。あなたがよっぽど不幸じゃなければ。……さようなら、旅人さん」
とん、と軽く門に向かって突き飛ばされる。それに逆らうことなく、僕はその門に吸い込まれーーホワイトアウトした。

目を開ければ、そこは見慣れた……夢で見た時から随分様変わりした子供部屋。
「さっきのは……」
やっぱり夢だったらしい。その証拠に、窓は開いていないし、カーテンだって夢で見ていた時ほど綺麗な白ではない。それに、誰かに会った気がするのに、記憶がかなり朧げだ。なんとはなしに枕元を漁ってみる。すると何か固くて丸いものを見つけた。取り出してみると、どうやら飴玉のようだ。
「こんなもの、置いてあったかな」
くるくると回してみる。どうも知らない文字が使われているらしい。全く読めない。しかし所詮は飴玉、使われているのは砂糖くらいのものだろう。特に警戒もなく包装を開ける。
「……光ってる」
そういえばそんなものもあったな、と笑う。夢の国なら、夢でまた会えるのではないか。西洋の子だったみたいだし、もしも次があれば何か和菓子でもあげたい。そもそもあまり行くべきところではないけれど、できるならもう一度。……ああ、でも。
「……明日、僕の誕生日だ」
きっと、もうあの国には行けない

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