小説

『明日の星模様』Akiha Ogawara【「20」にまつわる物語】

「ねえ~、聞いてんの。」

 そう声をかけてきて、寝転がって眺めていた空を遮るように私の顔を覗き込んでくるのは、Y。彼女は成績が悪い割に冴えていて、可愛らしいのに面倒くさいほどお節介だ。こうやって私の上の空な様子に気が付いたかと思えば余計な推測をしてくる。こんな風に高校生活の不変な毎日を彼女と過ごす。たぶんこの人とはいつまでも縁を切れないんだろうなと考える。

「まっ、いいや。ほらご飯だよ、はやくしないと購買ダッシュ乗りおくれる。」

 突然私が上の空である仮説を説くことを辞めれば、彼女の注目はすでに昼食にあった。はーいと空元気も甚だしいと思うも、私にとっては好都合なので返事をする。夏の兆しが見える空の下、体育をさぼっていたものだから、長い間肌にまとわりついた生暖かい空気から急に逃げたくなって購買に急ぐ。走りながら、すれ違う人達を見て、彼らの目に私はどう映っているのか、気になった。人が私に抱く印象といえばたぶん、サバサバしてるというくらいだろうか。彼氏なんていたこともなければ、モテもしない。
 青春を象徴する「甘酸っぱい」なんて言葉は抽象的過ぎて、私の高校生活からは連想もできない。私の高校生活なんて、同じ毎日の繰り返しだ。

 これからの人生の方がよっぽど長いのに、すでに人生に飽きてしまっている自分が、今日という日に意味を見出したくてうずうずしている自分の中に共存している。
 なんというか、明日が怖い。怖いというより、まだ、もうしばらくは、社会という負の感情が取り巻く静かな海に放り出されたくないのだ。まだ私はどうやって船を操作するかも知らないし、帆の操り方さえ知らないのだ。そんな静かな海に放り出されてしまえば、右も左もわからず漂流するほかない気がするのだ。けれど、自分は多感な時期の真っただ中にいるのだから、こんな不安の一つや二つあったってあたりまえだ、と世の大人が私の青春を片付けるような慰めをしては、現実へ意識を戻す。

 食堂で向かいに座るY がまたお節介を始める。

「なんで今日あんたそんなぼーっとしてるの。ナリト君となんかあったの、聞いてあげようか」

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