この人は同じ話を永遠とするのが好きなのだろうか。席に着けば、また今日も私のその人の話を始める。私のその人は、大学生。深い理由はない。二十歳の大学生のほうが大人な感じがして、なんとなくそうした。ナリトという名前にしたのも単純な思い付きで、20歳を意味した、「成人」を違う読み方にしただけなのだが、かえってそれに愛着がわくまでになった。毎日繰り返されるその物語に瞬時に続編を作るのも器用になったものだ。別に架空の恋人を煩わしく思ったことはないし、思いついたときに会えるのだから手間がかからなくて倦怠期なんてない、素晴らしい恋人だ。ただ一つ煩わしいのは、入学したてで友達を作るために彼氏がいるなんて嘘をついてしまったがために、この学校で恋愛なんて、できっこないということだ。
「だからー、昨日なんて、夜電話するって言っておいて、そのまま寝ちゃったんだって。大学生なんてたいして忙しくもないくせに、ほんとにいやになっちゃう。」
「なんだ、そんなこと。なんか相変わらずなんだね。別れないの?」
「んー、タイミング?別に今じゃなくてもいいかなって。だって電話をしようとしてくれる気はあるわけでしょう?愛されてるとは思うんだあ。」
「いいなあ、大学生。」
「なんで?」
「だってえ、大人で恰好よさそう。」
やめておいたほうがいいよ、とアドバイスを残して私はカフェオレを買いに席を立つ。昼食をともに食べる恋人たちを横目に見ながらばかばかしいと思い、足早に過ぎる。Yに聞かせているあの茶番を終わらせるには、その人と別れたってことにするのが手っ取り早いのは知っているのに、なぜかこの話の展開を楽しみにしている私がいる。ナリトの話を続けるたびに、私はナリトと2人の世界へ飛ぶことが出来る。ナリトはもはや私の一部になりつつあって、ナリトみたいな人を見つけられるまでは、恋人も恋愛も必要ないとまで思ってしまうようになった。
席に戻るなり今度はYが席を立つ。Yがあざといがゆえに、Yの行動にはすべて男の子が絡んでいるように思ってしまう。現に今だって最近かわいいと話すサッカー部の男の子狙いの行動だ。Yの男の趣味は様々だが、今回はわかる気がする。実際に、私好みにナリトを作り上げる時、無意識にこの子のことを思い出しているのだ。彼の白く透き通るような肌や、サッカーをしていると束になって跳ねる前髪、気だるそうにしているのにサッカーには熱心なところを、ナリトに組み込んでいる。あんな彼氏がいたら、それだけで誇れる女子高校生活だろう。
「ちょっと、君、列抜かしたでしょう。」
Yが言いがかりをつければ、始まる会話。
「僕だって焼きそばパンを食べるためにずいぶん前から並んでいるんだ。」