「あー、よく寝た。」
目が覚めて暫くボーっとした後、枕元に置いてある携帯を手に取り時間を確認すると16時を回っていたが、慌てる必要なんてない。今日は大学もバイトも休みだったので、敢えて寝坊したのだ。寝過ぎたせいかなんとなく体がだるい気がする。
「…喉渇いた。」
何か飲もうと二階にある自室を出ると階段を降りた。飲み物が置いてあるキッチンに向かうと、ちょうどおばあちゃんがぬか床の手入れをしているところだった。
「あら、夏帆ちゃんいたのね。学校かバイトにでも行っているのかと思っていたのよ。まさかこんな時間まで寝ているとは思わないもの。」
「休みぐらいゆっくりしたっていいでしょ。それよりもおばあちゃん、それなんとかしてよ。喉乾いたのに臭くて飲み物どころじゃないよ。」
夏帆は心底嫌そうな顔をしながら、臭いの原因であるぬか床を指差した。
「そうは言ってもねぇ、さっき始めたばかりだし。」
おばあちゃんはぬかに手を突っ込んだまま言った。見る限りすぐに終わりそうにもないので仕方なくやかんに入っているお茶をコップに一杯注ぐとグイっと飲み干した。
「お茶も飲めたし、わたしが出ていくからおばあちゃんは手入れ続けていいよ。」
「あら、ありがとうねぇ。」
おばあちゃんは嬉しそうに笑っていたが、夏帆は苦笑いで返すしかなかった。それにしてもおばあちゃんはよくぬか床の手入れなんて、しかも素手で出来るなぁと思う。夏帆は、ぬか床の臭いが大嫌いだし、触りたくもないのだ。
「はぁ。お茶飲みに行っただけなのに、なんかどっと疲れた。」
自室まで行くのも面倒になった夏帆は、キッチンから少しだけ離れたところにあるリビングに向かうと思いっきりソファにダイブした。ソファに寝転んだまま少し手を伸ばして、机の上に置いてある昨日買っておいた少年漫画の新刊と煎餅を手に取った。
「やっぱ休みの日は、漫画読みながら煎餅食べるに限るよね。」
漫画を少し読み進めたとき、ガチャっと家の扉の開く音がした。
「ただいまー。」
この声はお姉ちゃんだ。また厄介なのが帰ってきたぞと思ったが、自室まで戻るのも面倒なので気にせず漫画の続きを読むことにした。
「ちょっと、おばあちゃん。わたしこの臭い苦手だって言ってるでしょ。」