小説

『20歳のぬかどこ』平山美和

 優しそうな顔でそう言ったおばあちゃんは、毎日手入れをしているぬか床を指差した。
「え?ぬか床?」
 夏帆は驚きを隠せない。夏帆にとってのぬか床というものは、臭いイメージでしかないのだ。だから、ぬか床を使ってると言われてもピンと来ないし、簡単に受け入れられない。
 そんな夏帆の心情を知ってか知らずか、おばあちゃんは然程気にした様子も見せず、いつも手入れをしているぬか床の隣から、米ぬかだけが入った容器を夏帆に見せてきた。
「それをどうするの、おばあちゃん…。」
「これをぬるま湯でほぐしながら顔を洗うんだよ。おばあちゃんは、米ぬかをお湯で溶いて体も洗っているけど、さすがに夏帆ちゃんは抵抗があるだろうからねぇ。」
 おばあちゃんは楽しそうに喋りながらも、慣れた手つきで棚から取り出したガーゼに米ぬかを大さじ1杯ほど入れるとゴムで縛って夏帆に渡してきた。

「騙されたと思って使ってごらん。」
 暫くの間、おばあちゃんの顔と綿の袋を交互に見ていた夏帆だったが、何もしないよりかはましかと渋々受け取った。その日の夜、夏帆はおばあちゃんに言われた通り、お風呂に米ぬかが入ったガーゼを持って入ると、ぬるま湯でほぐしながら顔を洗った。
 お風呂を上がって髪の毛を乾かしながら、鏡に映ったカサカサで吹き出物だらけの自分の顔を見て一人嘆いた。
「少しでもましになればいいけど…。」
 正直、夏帆はぬか床にあまり期待をしていなかった。それでもお姉ちゃんのように毎日化粧水や乳液、パックをするほどまめな性格でない夏帆にとって米ぬかが入ったガーゼで顔を洗うのは実に簡単で楽なことだった。何もしないよりかはましと考えた夏帆は、気付けば毎日おばあちゃんお手製の米ぬかガーゼで顔を洗っていた。
「なんか最近肌の調子がいいかも!」
 ただ、米ぬかが入ったガーゼで顔を洗っているだけなのに夏帆の肌は日に日にキレイになっていた。あの美容マニアのお姉ちゃんに「肌ものすごく荒れてたのにキレイになってる!なんかした?」と驚かれるほどに効果は出ていた。
(米ぬかっていろんな使い方が出来てすごいなぁ!肌もキレイにしてくれるし、おばあちゃんが作った漬物は美味しいし!)

 ぬか効果で肌がキレイになり嬉しくなった夏帆は、あれほど臭いと言って嫌っていたぬか床にも興味が湧いてきた。
 次第に自分もぬか床で漬物を作ってみたくなった。
「おばあちゃん、わたしも自分専用のぬか床を作ってみたい!」
 夏帆の提案に最初は驚いていたおばあちゃんだったが、嬉しそうに賛成してくれた。

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