小説

『20歳のぬかどこ』平山美和

「行く行く!成人式一緒に行こうって約束してたもんね。」
「よかった!最近会えてないからさー、忘れられてたらどうしようかと思った。ほら夏帆ってドライなとこあるじゃん?」
 電話の向こうですみれが楽しそうに笑っている。すみれはいつだって元気だし楽しそうだ。そういうところ昔から変わらないなぁと思うと嬉しくなった。
「忘れるわけないでしょ。時間とかはまたラインで決めよ。すみれに会えるの楽しみにしてるね!」
 成人式が楽しみというよりも久々にすみれに会えることが楽しみだ。電話を切って余韻に浸っているとお姉ちゃんが自分の携帯をズイっと夏帆の目の前に持ってきた。何かと思い覗き込んで見ると、それはお姉ちゃんが成人式に行ったときの写真だった。
「成人式行くなら、当然髪の毛セットしてもらうんでしょ?それなら早めに隣町の美容院予約しておいたほうがいいよ。どこの美容院もいっぱいになるから。」
 電話の会話を聞いていたらしいお姉ちゃんが当たり前のように言ってきたが、夏帆は最初から美容院に行くつもりなどないのだ。
「わたしは美容院行かないから大丈夫。それにお姉ちゃんもわたしの友達知ってるでしょ?わざわざ美容院に行ったりするような子たちじゃないよ。まぁ色つきリップぐらいは塗るつもりだけどね。」
「そんな暢気なこと言ってるけど、美容院行かなかったこと後で絶対後悔するよ。田舎だと思って油断して惨めな思いしても知らないからね!」
 それだけ言うとお姉ちゃんはリビングを出て行った。一人取り残された夏帆はソファに寝転がるとお姉ちゃんに言われたことを思い出していた。
(そもそもお姉ちゃんは美容とか流行とか気にしすぎなんだよね。所詮田舎なのにさ。)

 成人式当日、おばあちゃんにお姉ちゃんのお下がりの着物を着付けてもらった。新しい着物を買ってもらうか、借り物にするか様々な案があったが、特にこだわりのない夏帆は、お姉ちゃんのお下がりでいいと答えた。
 夏帆は、色つきリップを塗ると全身鏡に映る自分の姿を見て呟いた。
「色つきリップだけでも着物さえ着たらそれなりに見えるじゃん!」
 夏帆は、ご機嫌で家を出ると、1時間に1本しか来ないバス停の前ですみれを待っていた。
「夏帆―!遅くなってごめんね。美容院が思ったより時間かかっちゃってさ。」
「…え?すみれ…だよね?」
 夏帆の目の前には、ばっちりメイクで髪の毛は隣町の美容院でセットしてもらったと嬉しそうに語る親友のすみれだと思われる人物がいる。
「ねぇ、ほんとにすみれなの?なんか違う人みたい…。」

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