涙が乾いて、頬がひりひりしていた。
ベランダに出ようとしたが、東京にも梅の香りが飛んでくる季節。また目頭が熱くなる気配がしたので、慌てて窓を閉めた。部屋の中をぼんやり見まわす。女二人で暮らすには少し狭いのかもしれない、この部屋。
「朝ご飯できたわよ」
と、台所から小雪の声がする。トーストとサラダと目玉焼きにコーヒー。実家にいたときからずっと変わらない、私達の朝食。腫れぼったい目蓋を無理やりこじ開けて、いただきます、と手を合わせた。泣き腫らして目の周りが赤くなっているのは、小雪も同じだった。コーヒーを一口飲み下し、トーストにサリサリとジャムを塗る。実家から毎年送られてくる、自家製の梅ジャム。
「新幹線、何時だっけ」
「11時よ。食べ終わったらすぐに支度してね」
「…私、喪服持ってない」
えっ、と小雪が飛びぬけた声をあげる。
「黒いワンピースとかもないの?」
テレビから流れる代わり映えのしないニュースに、小雪の困った声が反射する。その次はお天気、今日は全国的に、晴れ。
「肩の出るやつだったら」
「しょうがないわね…もう買いに行く時間ないから、それになんかカーディガンでも羽織んなさい」
わかった、と頷いて、もう一口ガブリ。サクッと口の中で食パンがほどける音がして、ダイニングテーブルにパンくずが落ちた。
ばぁちゃんが息を引き取った、と母から連絡があったのは、昨夜のことだった。幼い頃、共働きの両親の代わりにずっと私達の面倒を見てくれていた、優しい人だった。
新幹線の窓を流れる景色が、波立った心を徐々に鎮めていく。
隣に座る小雪の横顔を盗み見る。昨夜、二人で肩を抱き合って散々泣き喚いていたのとは別人かと思うくらい、凛と澄ました表情だった。喪服の黒に小雪の白い肌が浮かび上がって、なんだか幽霊みたいに感じた。長い睫毛が影を落として、ふとした拍子に黒髪がひと束、はらり、落ちる。小雪は美しい女だった。私とは違って。
「久しぶりだね、実家に帰るの」
「そうね…」