小説

『出自』滝怜奈(『かぐや姫、桃太郎、親指太郎』)

 それは、サークルの新歓でのことだった。一年生が一人ずつ自己紹介をする流れになり、いよいよ私の番が回ってきた。
「京都府出身の、竹中美姫です」
そういった瞬間、一人の男子が大声で言った。
「竹から生まれた子⁉」
場の空気は一変した。
「京都の光る竹から生まれた子だよね?そっか、たしかに18年前のことだもんな…。まさか大学で会えるなんて思ってもいなかったよ、てか全然普通な感じなんだねー。」
いきなり向けられる好奇の目。固まる私。居心地のよかった私のオアシスが、一気に地獄と化した。
「あの、私のことはいいので、次の人に…。」
ようやく絞り出した言葉だった。

 新歓が終わると私はすぐに部室を出た。たいして良く知らない人に自分のことについて根掘り葉掘り聞かれるのは不快だからだ。駅に向かって歩いていると、後ろから肩をたたかれた。振り返ると、そこにいたのは、私の名前を聞いて大声を出したあの男であった。
「さっきはいきなりごめんね。俺、君に会ってみたかったから興奮しちゃってさ…。」
無視して歩き続ける。
「俺、桃井虎太郎っていうんだ。これからよろしくね。」
なにがよろしくね、だ。私はよろしくしたくない。だいたい、初対面の人の出自に関して大声を出すなんて失礼だと思わないのか。さらに無視して歩き続ける。駅が見えてきた。
「俺、実は桃から生まれたんだ!」
「は?」
思わぬ言葉に驚いた。

1 2 3 4 5 6