小説

『出自』滝怜奈(『かぐや姫、桃太郎、親指太郎』)

私ははっとした。確かに、ここ最近の生理は来ていない。
「今日はもう遅いから、明日検査薬を買ってくるよ。ほかに何か欲しいものとか、食べたいものがあったら教えて、それも買ってくるから。今日はもう休んだら?」
「ありがとう。そうさせてもらうね。」
優しい夫を持って幸せだ。最初はあんなにも最悪な印象だったのに。そんなことを思いながら眠りについた。
 翌日、検査薬を夫が買ってきてくれた。検査の結果、陽性だった。
「見て!お腹に、私たちの赤ちゃんがいる!」
「おお!よかった!おめでとう、美姫!」
「私たちの子供ってどうやって生まれてくるのかな。あなたと同じで桃かな、私と同じで竹かな。普通にお腹から生まれてくれると嬉しいんだけど。」
「普通に生まれてくるんじゃないかな。桃と竹以外に何かから生まれたって話聞いたことないし」
それもそうである。私は安心した。きっと、普通に生まれてくるだろう。

 それから少しして、私は産婦人科に行った。これで、お腹の赤ちゃんをようやく目視できる。早くその存在を現実のものとして感じたかった。
 しかし、エコー検査で衝撃的なことを言われた。
「お腹に赤ちゃんが見えませんね」
ショックだった。言葉が出なかった。
「あの、検査では陽性だったんですけど、本当にいないのですか?」
「うーん、みえないなぁ。検査もごくまれに違うこともありますからね。残念だけど、妊娠していないみたいです。」
では、私のこの吐き気は何なのか。すっぱいものを食べたいのは気のせいだとでもいうのか。この足で、私は別の病院へ向かった。しかし次の病院でも、エコーで赤ちゃんを確認することはできなかった。

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