「ん、まあ……な」
曖昧に頷いて、砂糖もミルクも入れていないアイスコーヒーを口に運ぶ。
彩夏と過ごす日々は楽しい。だけど、それは本当なら晴樹が過ごしていたかもしれない時間だ。小さく息を吐いて、アイスコーヒーをもう一口。
「羨ましいなあ。まあ、仲良さそうだったもんなあ、お前ら」
「そうかな?」
「そうだよ。阿吽の呼吸っていうかさ、通じ合ってるみたいで。隣で見てた方の気にもなってみろってんだ」
調子付けて笑う晴樹に何とか笑みを返す。あの時俺が手紙を鞄に入れなかったら、隣で見ているのは俺の方だったのかもしれない。そうなっていたら、俺は晴樹のように笑えただろうか。
「あれ、彰斗。スマホにメッセージ来てるぞ?」
「あ、ほんとだ」
晴樹の声にテーブルの上に置いていたスマホを見てみると、彩夏からメッセージが入っていた。バイトが早く終わったから今から俺の部屋に来るという。
「彩夏がうちに来るって」
「マジか。じゃあ、帰らないと」
「いや、彩夏には合鍵渡してるし、晴樹と会うのは伝えてたからゆっくりしてこいってさ」
大学は実家から通えない距離ではないんだけど、毎日の通学のことを考えると学校の近くのアパートを借りていた。大学でちょっと時間が空いたときなんかに便利ってことで、彩夏がよくやってくる。
「ふーん。ま、明日からもしばらくいるし、あんまり俺に気をつかわないで行ってやれよ」
「うん、サンキュ」
とはいえ、あまり早く戻っても晴樹が気をつかったことを彩夏が気にするだろう。
それに、こんなこともあろうかと“あれ”は持ってきているはずだし、慌てて帰ることもない。これが晴樹への罪滅ぼしになるとは到底思わないけど、できる限り晴樹の為に時間を使いたかった。