アヤは青い帽子と黄色いコートを見に纏い、赤い靴を履いていた。なんだかアヤの格好が信号機に似ているなと思った。もしかすると、アヤは信号機のないこの場所で、その役割をしているのかもしれない。そう思うとなんだか少しだけ前向きな気持ちになることができた。
「傘持ってないの? ほら、私の折りたたみ傘貸すよ」
アヤは私に薄緑色の折りたたみ傘を差し出した。
「ごめん、ありがと。てか、なんで二本持ってるの」
「だって、二本あればいざという時に貸せるじゃん」
アヤはそれが当然だと言わんばかりに鼻の穴を膨らませ、その傘を私の手に握らせた。
「ありがと」
アヤの手はとても温かかった。
「あの樹、寒くないのかな」
アヤが見る視線の先には、真っ白な雪景色の中で一本だけ生えた背の高い樹があった。
「たしかにー。私なんてこんなに厚着しているのに」
「てか、なんかあの樹、マキみたいだね」
アヤは私を揶揄うように言った。
「ほら、マキってあたしといない時っていつも一人じゃん」
「別にいつも一人なわけじゃありませんー」
「それにマキってさ、高校の時の演劇でセリフのない樹の役やったんでしょ」
「え、なんでアヤがそれを知ってるの」
「さぁ、どうしてだろうねー」