小説

『三年寝ず太郎』y.onoda(『三年寝太郎』(山形県))

 列車は急行のようで、途中いくつかの駅を通過した。照らされた駅は、さながらスクリーンに投影された映画だった。無造作に列車を待つ人々が映っては消えて、映っては消えてと、劣化したフィルムの映像を見ているようだった。
 太郎は、駅を通過する時に差し込む光を頼りに、扉を開けて隣の車両に入った。寝息のリズムとメロディが違って聞こえた。この車両の人も大方眠っているのだろう。光はなかったが、真ん中の通路は何もないと踏んで太郎は歩みを進めた。が、すぐに何かにつまずいた。暗闇でよろけた太郎は、世界そのものが転倒したような感覚に陥りながら何かをつかんだ。それは誰かの肩だった。
「すいません…」
と謝りながら、太郎はその肩をタップしていた。肩の所有者は、番犬のようなうなり声を出してからしばらくすると、
「お前、中学生か?」
と闇の中で話しかけてきた。太郎のことが見えるらしい。
「はい…」
「珍しいな、こんな時間に。さっき女の子もここを通っていったよ。お前と同じぐらいの子だ」
 列車が駅を通過した。少しの間、光が窓から差し込んできた。肩の所有者は深く帽子をかぶっていて顔はよく見えなかった。
「ここから先はしばらく駅がない。これを持ってけ」
と言って、男は座席の下からマッチと燭台に置かれたロウソクを取り出して火をつけた。太郎はお礼を言って燭台を受け取った。ロウソクの火で、さっきつまずいたのは通路で寝ている人だとわかった。
 太郎は車両を後ろへと進んだ。乗客は例外なく眠っていた。その寝相は様々で、うつむく人、あごが上がって口が開いている人、隣の人の肩にもたれかかっている人、座席に寝そべっている人…時間が止まってしまったような景色だった。

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