小説

『歌舞伎町物語』國分美幸(『遠野物語 寒戸の婆』(岩手県遠野地方))

「何、してるんですか?」
 サクトが尋ねると、又も黒いワゴン車が猛スピードでバックをしてきた。ジュンヤとサクトは慌てて、壁際に身を寄せる。二人の前に、車から屈強な男が三人降りてきた。
「あんたら、ここで赤いドレス着た女見なかったか?」
 二人は即座に首を振る。
「隠してたら、どうなるか分るよな?!」耳元で大声を出されて、二人は目を瞑る。その時、救いのサイレンが鳴り響いてきた。男たちはすぐにワゴン車に乗り込み、ドアが閉まる前に発車し、慌ただしく消えていった。取り残された二人は、顔を見合わせ、その場に座り込む。
「なんなんだよ!」
「ジュンヤさん、もう帰りましょうよ。俺、巻き込まれたくないっす」
「そうだな……。あれ、京華は?」
 二人は京華はいるはずの雑居ビルを見るが、そこにはキラキラと輝くハイヒールが、行儀よく置かれているだけだった。京華の行方も、赤いドレスの女の行方も、誰も知らない。

 今でも、ジュンヤとサクトは歌舞伎町に春の嵐が吹きし日には、京華が帰って来そう日なりと云う。

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