「はい」
インターホンから若い女の声がした。
「お届け物です」
覚えがないがドアを開けてみると、滝沢の目の前に楓がいた。
「お届け物です」
「……あの?」
楓の意図がわからず、滝沢は困惑する。
「これ、うちのお酒。日本酒はないけど、焼酎ならあるから」
「はあ……」
「飲み方、わかる?」
「えーと……」
焼酎はあまり飲まない。すぐに思いつくはずもない。
「……一緒に飲みます?」
思わず口にした言葉に、滝沢は自分で引いた。
一人暮らしの余所者の男の家に、会って間もない女を家に誘った日には、近隣に広まっている気がする。
人と接点がないからといっても人に何か言われて気にならないわけではない。
「縁側もあるんで、そちらでどうですか」
なけなしのオープンスペース提案に、楓は笑って、いいよと頷いた。
*
楓が作ったのはカボス割りだった。
一緒にカボスを渡すつもりだったと言う楓に、滝沢は自分の誘いの無謀さに恥ずかしくなった。
楓はそんなことは気にもせず、縁側に腰掛けた。
「本当は夏の終わりが旬だけど」
そう言いながら、焼酎をロックにしてカボスを搾った。
一絞りで香りが立つと、滝沢はようやく緊張が解けた。
「東京のどの辺住んでたの?」
「三軒茶屋…ってわかります?」
言いかけて、そこまでメジャーじゃないことに気がつき、疑問系へと切り替える。
「知ってる。住んでたし」
楓は東京の大学に進み、卒業と同時に地元に戻ったのだという。
滝沢が理由を聞くと、家に帰るのに理由がいるのかと楓は口を尖らせた。