小説

『凍てつかせたのは雪男』五条紀夫(『雪女』)

「そんなのさ、直接会わなくても良いだろ」
「うん。ごめんなさい。軽率なことをして反省してる」
 短い静寂の後、結月が泣き始めた。俺の大きな声で目を覚ましてしまったのだろう。俺はベビーベッドに向かい、泣いている結月を抱き上げた。
 雪さんは黙ったまま酷く申し訳なさそうな顔をしている。これ以上、責めるべきではない。ただ、どうしても気になることがあった。
 俺は、静かに尋ねた。
「言ったの?」
「え? なんのこと?」
「元彼に、子供の父親はあなたですって……」
 雪さんは軽蔑の視線を寄越し、震える声を発した。
「結月の父親はもっちゃんでしょ」
 そして、家を出ていってしまった。

 
「それで雪女はどうなったの?」
 と、結月が言った。
「雪女の物語はこれでおしまいだよ」
「悲しい……」
「原作はね」
「原作? 原作って?」
 結月が首を傾げた時、扉の開く音がした。
「ただいまー」
「あ、お母さん帰ってきた」
 そう言って結月は荷物を受け取りに玄関へと駆けていった。

1 2 3 4 5 6 7 8 9