「そんなのさ、直接会わなくても良いだろ」
「うん。ごめんなさい。軽率なことをして反省してる」
短い静寂の後、結月が泣き始めた。俺の大きな声で目を覚ましてしまったのだろう。俺はベビーベッドに向かい、泣いている結月を抱き上げた。
雪さんは黙ったまま酷く申し訳なさそうな顔をしている。これ以上、責めるべきではない。ただ、どうしても気になることがあった。
俺は、静かに尋ねた。
「言ったの?」
「え? なんのこと?」
「元彼に、子供の父親はあなたですって……」
雪さんは軽蔑の視線を寄越し、震える声を発した。
「結月の父親はもっちゃんでしょ」
そして、家を出ていってしまった。
「それで雪女はどうなったの?」
と、結月が言った。
「雪女の物語はこれでおしまいだよ」
「悲しい……」
「原作はね」
「原作? 原作って?」
結月が首を傾げた時、扉の開く音がした。
「ただいまー」
「あ、お母さん帰ってきた」
そう言って結月は荷物を受け取りに玄関へと駆けていった。