小説

『凍てつかせたのは雪男』五条紀夫(『雪女』)

「良くないよ、そういうの。自分を大切にしたほうが良い」
「凍死しようとしていた人に言われたくないよ」
 呆れたようにそう言って、彼女は台所に立った。
「お腹減ってない? 一緒にご飯しようよ」
「こんな時間から晩御飯?」
「飲食の仕事をしてるから帰りが遅いの」
 首肯でもって相槌を打つ。しばらくすると、食卓にいくつもの皿が並んだ。向かい合わせに座り、さっそく料理をつつき始める。
 そして食事の最後、俺は大事なことを思い出した。
「そういえば、名前を聞いてなかったね」
「ゆきこ。雪の子と書いて雪子。古臭い名前でしょ」
「古臭さなら負けないよ。俺の名前、茂吉っていうんだ」
「もきち? 昔話の登場人物みたい」
 彼女は穏やかに微笑んだ。
「雪女も笑うんだ?」
「雪女? 人を凍らせる妖怪の?」
「一目見た時、そんな感じがしたんだ。その上、名前は雪さんだ」
「……ああ、うん、そうだね。私は雪女かも知れないね」
 雪さんは、視線を落とし、再び小さく笑った。

 

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