「顔が凍ってるよ。やっぱり、私は他人を凍てつかせる雪女だね」
「あのさ、雪さんは……」
余計なことを言いそうになったが、飲み込んだ。産むつもりなのか。そんなことを言えば責めていると思われかねない。どんな選択をしようと辛い思いをするのは雪さんだ。救いとなる発言をしなければならない。
しかし、何も言葉が浮かばなかった。
「一人で産むよ」
俺の疑問を察したかのように雪さんが言った。
「私、一人で産む。もっちゃんは新しい住まいを探して」
その顔は穏やかに微笑んでいた。
俺はそんな彼女のことを見つめたまま口を開いた。
「なかったことにしよう」
「……そうだね。私達は出会わなかったってことにしようか」
「違う。そういう意味じゃなくて、元彼のことも、いまここで話した内容も、全部なかったことにして、俺の子供ってことにしよう。そうだな、うん、そうなると、責任を取らないとな」
「そういう訳にはいかないでしょ」
咄嗟に耳を塞ぐ。
「あー、あー、聞こえない聞こえない」
「真剣に言ってるんだけど」
「俺だって真剣だよ! 俺さ、確信しちゃったよ。雪さんのこと、めちゃくちゃ好きだ。だから結婚して欲しい。雪さんも子供も絶対幸せにするよ」
雪さんは顔を隠すようにうつむき、それから、小さく頷いた。
念を押すように囁く。
「なかったことについては、誰にも言わないようにしよう。お互いに」