「お父さん? ボーっとしてどしたの? ご飯冷めちゃうよ」
結月に声をかけられ、俺は我に返った。
「あ、ああ、雪女の話を思い出してたんだ」
「雪女? 妖怪の?」
「そうそう、人を凍らせる妖怪。雪女にはこんな逸話があって……」
「もしかして恐い話をしようとしてない? そういうの苦手なんだけど」
「雪女は恐い話ではないよ。どちらかといえば、恋物語かな……」
あれから二ヶ月が過ぎた。
雪さんとは流されるまま一緒に暮らしていた。もっと言うと、はっきりと気持ちを確認し合った訳ではないが、男女の関係になっていた。いい加減な性格の俺と無頓着な彼女は馬が合い、二人の暮らしは居心地が良かった。それこそ、ずっとこのままでいたい、そう思えるほどに。
「もっちゃん、就職おめでとー」
「ありがと。雪さんのおかげだよ」
居候として家事をしながら地道に就活をした結果、造園会社に就職することができた。帰りが早い上に土日休み。収入も、未経験にしては、かなり良い。激しい肉体労働であることを考慮しても、好条件の仕事だ。
雪さんと出会えずに住所不定のままだったならば、こうして再起を図ることは叶わなかっただろう。俺は、感謝の気持ちを込め、ご馳走を用意した。