小説

『ごんの贈り物』yoko(『ごんぎつね』)

 一と言う名は、自分の名前の兵十の“十”と言う字から取った。物事は全て、一から始まる。兵十は一と言う数字が一番好きだった。最初からいくらでもやり直す事が出来る、一は希望に満ち溢れた数字だ。華もいい名だとすぐに気に入ってくれた。兵十は、母親に出来なかった孝行が、二人を慈しみ大切にする事、自分が幸せになる事で、叶えられると信じた。母親もきっと、天国で喜んでくれているはずだ、と。
 時たま一を見ていると、まるでごんを見ている様な瞬間があり、とても不思議に思う事が多々あった。ごんの真心は、常に兵十を包み込んでいる。兵十の中でごんは、今も生き続けている。
 ごんの母親が死んだ時、彼女は同じく神様にあるお願いをしていた。独りぼっちのごんを見守って欲しいと。しかし、願い事をすれば、息子との縁を切った転生しか出来なくなる事を知っていた。それは承知の上だった。だが、幼くしてごんは、思いがけず兵十に命を奪われてしまったから、神様は酷く心を痛め、ごんの母親との約束を果たせなかった事を悔やんだ。
 ごんの母親が願い事をした時点で、ごんと母親の縁は既に切れていた。
 心優しい願い事をしたごんに、神様は泣いた。
 そして神様は決めたのだ、ごんを一として転生させる事を。
「さあ、もう自分を責める事はない、三人で幸せに生きるのだ。」
 そういうと、神様は優しいごんの頭を何度も何度も撫でてあげた。
「いい子だ、いい子だ・・・。」
 ごんは安らかに神様の傍から消え、兵十と華の元へ旅立ちました。

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