小説

『夕照の道』ウダ・タマキ(『この道』)

 坂が多く潮風にさらされた建物は傷みやすい難点はありますが、夕照の道を中心に公的機関や商店が建ち並ぶ小さな町は暮らしやすくもあります。
 良い街だよな、なんてことを考えながらあなたと肩を並べて夕照の道を下り、実家を目指すのでした。車で来るという選択肢もありましたが、なぜか歩いて帰りたかったのです。
「涼しくなったなぁ。寒いくらいだ」
「日中は過ごしやすいんだけどね。ごめん、仕事の都合でお迎えがこんな時間になってしまって」
「で、これからどこへ向かうんだ?」
「父さんがずっと住んでいた家さ」
「あぁ、そうだそうだ」
 あなたの歩調に合わせてゆっくりと歩きながら、僕は周囲の様子をうかがっていました。夕照の道に並ぶ街路樹はすっかり色付き、夕陽に照らされた街は建物の形をモノクロに浮かび上がらせています。いつもと変わらない夕暮れ時の景色が広がっているだけでした。
 時計塔から鐘の音が聞こえてきました。
「おっ、夕飯の時間だ」
 あなたの言葉が、なんだか僕には嬉しかったのです。
「何か食べたいものある?」
「そうだなぁ。これと言ってないよなぁ」
「父さん」
「どうした?」
「妻の奈央が妊娠したんだ。今日は来れなかったから、また会わせるよ」
「おぉ、それはめでたいな」

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