小説

『ユー&アイ』十六夜博士(『嫁入り竜女の忘れもの』(富山県))

「仙台の大学はどう? なんか垢抜けたね」
ミキちゃんが興味津々であたしの顔を覗く。
「そっ、そうかな。でも、やっぱり、ここの空気の方が美味しいよ」
「いつまでいるの?」
「八月中はいる」
「じゃあ、ちょくちょく会おう」
「うん。毎日、田んぼを手伝おうかと思って。そしたら毎日、会える」
「えっー。いいの?」
ミキちゃんが飛び上がって喜んだ。数ヶ月ぶりの邂逅ではしゃぐ私達におじさんが言った。
「あんたら、ほんと稲作が好きだな。あんまり稲作ばっかしてっと、恋人出来ないぞ」
二人で顔を見合わせて、イシシシシと笑い合った。
中学校の文化祭以来、ミキちゃんと私は無二の親友になった。二人とも同じ時期にお母さんを亡くした経験がお互いを特別なものにしたのかもしれない。それに、コジロー好きを始め、あらゆるところで気持ちが共有出来た。進んだ道は違うけど、きっとずっと一緒だと思える。私のコジローのマグカップはミキちゃんになった――。
 空を見上げると、お母さんが笑っているように日差しが眩しい。ぽっかり浮かぶ雲がなんだか竜のように見えた。
 お母さん、きっとここも天国だよね――。

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