震災で流された私のマグカップ。私のお父さんも長く探してくれたけど見つからなかった。宝物だったし、お母さんとの思い出の品だったから私はたくさん泣いた。でも、最後は諦めた。私には竜の御守があるからって――。
きっと私が思うのと同じくらいミキちゃんにとってコジローのマグカップは大切なもののはず。それぐらい大切なものをミキちゃんは返すと言う。でも――、マグカップが無くなったら、ミキちゃんには何も残らない。胸がギュッとなった。
「実は私もコジローが好きなの。だからミキちゃんも好きなんだと知って、ビックリして見てた。良いなー、名前入りのカップ。私も欲しかったなー」
笑顔を作って私はそう言うと、もう一度名前の書かれた部分を確認するふりをした。
「これ、ミキちゃんのだよ。私にはlにしか見えないよ」
IでもUでも、どっちでも良い。私はただ、ミキちゃんの誠実さに打たれていて、このマグカップはミキちゃんが持っているべきだと思った。
ミキちゃんは私の笑顔を確かめるように眺めた。そして、ゆっくり口角を上げた。
久しぶりの地元の空気はやっぱり澄んでいた。
自転車に乗りながら、稲が育った田んぼを眺めていると、遠目に小さくなった二人の人影が見えた。
「ミキちゃーん」
私としてはビックリするほどの大声を上げると、人影のひとつが手を振り返した。畦道に入って、二人の元に向かう。
「今年も豊作だね」
青々と元気に伸びる稲を見た感激をまず伝えた。
「あんたらが文化祭で育てて以来、毎年、一中の生徒が手伝ってくれるからね」とおじさんが目を細めた。