「お姉ちゃん、おにぎり美味しいね!」
みんなで収穫したお米で作ったおにぎりを校庭に建てたテントで配ると、おにぎりを頬張った女の子が笑顔で言った。幼稚園児ぐらい。震災の時の私を思い出す。
「ほんとだね。お姉ちゃんにありがとうって言わないと」
隣のお母さんに促されて、女の子は、「ありがとう」と言った。
「どういたしまして」
二人に手を振って見送りながら私は隣のミキちゃんに言った。私はワタナベさんをミキちゃんと呼ぶようになっていた。
「ミキちゃん、ありがとう」
「なにが?」
「こんな素敵な文化祭にしてくれて」
最初は戸惑っていたクラスのみんなも結局熱心に参加してくれた。サトウくんは、今、近所のお年寄りにおにぎりを配りに行っているし、オオタくんは、教室で我々の活動をプレゼンしてくれている。なんか昔の明るい町が戻ってきたような気がした。
「何言ってんの。ミクちゃん含めクラスのみんなが作り上げたんじゃない」
その言葉に応えるように、私は小さく笑顔を作った。
「あたし農業高校に行くことに決めた」
ミキちゃんが突然、未来を語った。
「ミクちゃんみたいに勉強得意じゃないし、今回、農業って良いなって思ったから」
凄く良いなと思う。
「でもさ、文化祭に没頭しすぎて成績落ちて、農業高校行かれないかもって、この前言われちゃったんだ。ミクちゃん、文化祭終わったら勉強教えて!」
ミクちゃんが重ねた両手で私を拝み、頭を下げた。
「うん」と、私は笑顔で頷いた。