小説

『旧い友人』平大典(『文福茶釜』)

 三年生の三学期、「なんで古い遊びしか知らないのか」と叱責してしまった。
 指先が固いものに触れた。
 俺は急いで掘り起こす。
 息を呑む。汗がもう一度全身から噴き出した。
 紫色のゲームボーイアドバンス。土で汚れている。
 わかっていた。これは片桐と遊ぶようになったきっかけのゲームボーイアドバンスだ。
 いや、これは見た目通りではない。
 タヌキ、だかなんだか。
 サトシは俺のために、これに変身した。そして、戻れなくなった。
 俺は思い出す。片桐たちと遊ぶようになりしばらく放置していた。
 語らなくなり、電源の入らなくなった〈これ〉を、泣きながら飼い主の老人の元へ持ってきた。それがここへ来た最後だ。飼い主の老人はぼそぼそと呟き、「もう二度と来るな」と告げたのだ。
 恐ろしいことをした。いや薄汚い真似だ。
 本当は俺が埋葬すべきだったのに、老人を頼ったのだ。老人に変わり果てたサトシを渡して、それで罪悪感や責務から逃れた。
 ぞっとした思いをしたまま、俺は混乱し、慌ててゲームボーイアドバンスを穴に放り込み、土を乗せ、埋めなおした。
 二度と掘り返してはいけない。
 もう二度とこの場所には来ない。
 何度から呼吸を整えてから、家屋から離れた。
 林道から出るところだった。
 目の前を丸い身体をしたタヌキが一匹通り過ぎていった。
「こんにちは」そいつは立ち止まると俺を向き、ぼそりとやわらかく告げた。「そっちには、家しかないですよ」
 俺が呆然としていると、タヌキはにぃっと歯をむき出しにして嗤い、言葉を続けた。
「そうでもないみたいねェ」

1 2 3 4 5 6