親狐は飛ぶようにして家に帰ると、まだ眠っている子狐から狐の玉を奪って戻った。頭を下げて狐の玉を掲げて見せると、おおと稲荷大明神の使いは声を出した。やけに幼い声に思えた。
「これじゃ、これじゃ。間違いない。ご苦労だったな」
「いえいえ。これでご納得いただけたなら」
そう返したが、返事がない。はて、と親狐は訝しんで顔を上げると、そこにいたはずの使いの姿は消えていた。代わりに、遠くに走り去っていく小僧の後ろ姿が見えた。茫然とする親狐の後ろから、子狐が走ってくる。
「玉がない!」
子狐はそう叫んだ。朝早くの事である。