まくし立てるように言ってから、源さんは自分の姿に気付いたような顔をした。それから声を落ち着けて言った。
「監督なら周りを見ろ。お前一人の映画じゃないんだぞ」
「いや」
十村さんの、半開きだった口がようやく動いた。
「これは僕の映画ですよ」
場合によっては、ここで撮影がストップしてもおかしくなかったはずだ。それでもわたしたちが空中分解せずに映画を撮り続けられたのは、コンクール出品というサークルの伝統を絶やしてはならないという気持ちと、十村さんに思いをぶつけた源さんの姿があったからだ。
ここで撮影を投げ出すことは色々な意味で負けたことになると誰もがわかっていた。それぐらいの気概は、わたしたちだって持っていた。
不満を別の形で爆発させた人も、いるにはいたけれど。
ある日の撮影終わり、わたしは部室に残って後片付けをしていた。用事を済ませ外に出ると、日はすっかり暮れていた。
高台にあるサークル棟から階段を降りていると、下から清田さんが上がってきた。駆けてきたのか、息を切らしていた。彼女はわたしの顔を見ると、少し驚いたようだった。それから笑顔になって、遅くまで残っていたわたしを労った。
わたしたちは二言三言言葉を交わし、すれ違った。わたしは再び、薄暗い階段を降り始めた。
階段を降りきろうかというところで、妙な音が聞こえた。声というべき生々しさがあった。
出所は、階段の下だった。暗がりに目を凝らすと、闇の底に何かが横たわっているようだった。
やがて目が慣れてくると、それが人間だとわかった。人間の男。
まず、その気味悪さに脚が竦んだ。けれど、聞こえてくるのが苦しそうな呻き声だとわかると、体が動いた。階段を駆け下り、うつ伏せになっている人物に声を掛ける。
「あの、大丈夫ですか?」
「……痛い」