花と実との季節を数回繰り返すうちに、私もすっかり、大きくなりました。
元々饒舌なふたりではないのですが、夫婦は口数がめっきり減りました。そして時おり私を見ては、はあ、と息を吐くのです。
そしてもうひとつ、気になることが。
李が弱ってきたのです。
年々と花が減り、それにつれ実りも乏しくなっていきました。
ある晩、私は月明かりに胸苦しさを覚え、ふと目が覚めました。
いつもならば脇で寝ている夫婦が居ない。
その時、軒からぼそぼそと、話声がするのに気づいた私は、何故か胸がさわぎ、音を立てぬよう起き上がると土間に下り、外を伺ったのです。
ふたりが、声を潜め何やら話しているのが、澄んだ月明かりの中、耳に届きました。
「あの子も、そろそろ月のものが来ます」
「子どもでは無くなる前に、木の下に」
「次のをまた、浚いに行くのですか」
女の問いに、男が溜息をついて言いました。
「李が李であるためには、必ず要るのだ。分かるであろう? 木は弱ってきているのだ」
女の吐息が、確かに耳に入りました。
しばらくは虫の声が続き、ひそやかな女の呟きが、私の耳に刺さったのです。
「お前が早くに悔い改めておれば、わが子をコトリに食わせずに済んだのに」
「しかし」
男の潜めた声が覆いかぶさります。
「次の子が欲しいと言ったのはお前だろう、産めぬ身体になったのに、それでも」
続ける男の声に、私は凍り付きました。
「コトリの言う通り、李を植え、実を採り続ければ子どもとしばらく過ごす事ができるではないか……例え、李の肥しにするために、さらってきた子どもであっても」
私が無事逃げて来られたのは、まったく神仏のお陰でありましょう。さて。
この家には、李はありませぬよね?