しかし、真夏の炎天下がこんなにも辛いとは。空腹と水分不足も手伝って、僕の視界はゆらゆら揺れた。幾度目かの眩暈に襲われたところで、ある団地の一角にベンチを見つけた。
日陰のベンチに座り深呼吸してみたが、意識は朦朧とするばかり。
もう降参だ、と思った。
逃げるだけで悪あがきひとつもできなかった僕を、芹沢は笑うだろう。頼みの綱の広瀬にも裏切られた。もうどうにでもなれ。
心の中で涙を流しながら、僕はうとうとまどろんでしまった。
ふと耳に、ガコンッという爽快な音が聞こえた。そっと頭をもたげ、息を吞んで目を細める。団地の住人らしき人が、右手に財布、左手に飲料の缶を持って歩いていた。
よろよろ立ち上がって、吸い込まれるように彼の来た方へと向かう。
建物の死角となってベンチから見えない位置に、自動販売機があった。電車代となるはずだった小銭を入れ、飲料を購入。蓋を開けて、一口飲んだ。ほうと長いため息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩ける。行こう。
見れば、斜陽は赤い光を投じている。はっとしてスマホを見ると、十八時二十分。まずい。
僕は何としても、芹沢を確保せねばならない。悪役の最期にふさわしい道連れ作戦を、この手で遂行しなければならない。今はただその一事だ。
走れ、津島!
道行く人を押しのけ、跳ね飛ばし、僕は風のように走った。
遥か向こうに小さく、大学校舎上部のパラボラアンテナが見える。アンテナは、夕日を受けてキラキラ光った。
ブゥゥゥン。
エンジン音に続いて、斜め後ろから声が聞こえた。
「おい、津島」
それはバイクに乗った広瀬の声であった。
「戻ったら事務室に突き出されるんだろ。どうして走ってる?」
「芹沢を道連れにする」
「やめとけよ。バカ」
「僕たちの関係を、半端なごっこ遊びで終わらせたくないから走るんだ。悪役同士の信頼を、裏切らないために走るんだ!」
「やっぱバカだよお前は」
広瀬はスピードを上げて僕を追い抜いた。かと思えば、数メートル先で停止し、おもむろにヘルメットを差し出してきた。
「だけど、お前の全力のバカが、俺は好きだ」
「広瀬」
「乗れよ」