サングラスをかけなおすと、仁美は両手を組んで伸びをしながらロータリーにまた向き直った。
「てか、正直いうと、ふられるような感じがしなくもない」
「だろうな。他人に無関心すぎるってさ、彫刻男だからさ」
仁美は組んでいた足をほどいた。両手をベンチにつくと、両足をぶらぶら揺らした。
「見た目じゃなくってさ。高校生の時から、他人に興味なんかなさげって感じだったよ。今もさ、私に何も聞いてこないし。なんでこんな時間に散歩するの? とか、なんで人と話したい気分なの? とか」
「確かに。散歩って夜明け前に? 人と話したい時って何かあった?」
あえて棒読みな感じで聞くと、仁美はぷっと吹きだした。
「興味なさげだねー」
仁美はお腹を抱え、声を出して本格的に笑い始めた。笑いながら、泣いていた。おい、と声をかけようとした時、カラスの鳴き声と羽音がロータリーに反響した。雑居ビルの前でさまよっていたカラスたちが、白み始めた空へと飛び立っていく。
「こんな時間っていうのは、太陽が無理だから。ずーっと一人でね、暗闇歩いてるのよ。不気味だよね。分かってる」
帽子を脱ぎ、サングラスとマスクも外すと、仁美は涙をぬぐいながら、石像の前に立った。
「この子もさ、相当不気味だよね」
悠次郎も隣に立つと、石像を見下ろした。黒手袋を外すと、仁美は右手で頭を撫でた。
「だから声かけてみたんだ」
真っ白な腕は細くて長く、思わず触れてみたくなるような、白く陶器みたいな手だった。
「そしたらさ、案外不気味じゃないの。知ってた? この子、鉢かづき姫って昔話の主人公。鉢かぶってるけど、ほんとは絶世の美女らしいよ」
「どんな話?」
「人を見た目で決めつけるなよってスカッとする話」