小説

『花咲兄さん』横山晴香(『はなさかじいさん』)

 目を覚ました私の脳裏には、光に溶け込むシロの後姿がはっきりと残っていた。
 私はそこで櫛の灰のことを思い出して、起き上がると、リビングのカーテンを開ける。
 途端、晴れやかな色の光が部屋に差し込んだ。
 灰を撒いた枯れ木は、みずみずしい若葉と、柔らかな色の桜を満開にしていた。
 もう、夏だと言うのに。
 あんなに立派な姿になっていたのに、どうしても思い出されるのはやんちゃな子犬の時の姿で、私は少し鼻をすすった。

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