訳が分からない。
「あの、何のためにそんな」
「仕事だよ、仕事」
頭をゆっくりと回転させる。アイドル育成ゲームの制作会社とかそんな感じだろうか。え、ちょっと待て。
「あのっ、じゃあアイドルのミキュミキュって夢のキャラなんですか?」
俺の十年の恋・・・男は呆れた顔で俺を見下ろした。
「やばいな。頭大丈夫?」鏡を差し出す。
「え!?」
「自分のことじゃん。ホント大丈夫?ミキュちゃん」
・・・えーっと・・・
「ケーブル外したから起きていいよ」
そう言われ、俺はゆっくりとベッドから体を起こす。俺にくっついてるしなやかな手足と柔らかな胸。鏡の中には見慣れた童顔が。
「ミキュミキュ?」
「もーしっかりしてよー。ちゃんと説明したでしょ。アイドル路線が落ち目だから今後どう売り出そうかって話で、君の従来のファンの心理を分析しようって。分かった?君が十代だった頃のファンはもう離れていってんの。いつまでも昔の可愛い路線じゃダメなんだって。スタイルはいいんだから濡れ場で体張るとか、何かしらニッチな知識付けるとか芸風変えてかないとさぁ。どうよ、男目線で見た自分の市場価値、ちょっとは分かった?」
呆然と鏡の中を見る。確かにこれはアイドルのミキュミキュ。いやもう二十代だけど。
「えーっとつまり今までのあたしは、夢見る十代の少年の妄想彼女?」
脳内をフル回転。思い出せ、夢の中の俺。今の俺が好きになるとしたら。
「その世代がさぁ、今は社会人になって二、三年ってとこよね。あのタイプが惹かれるのはちょっと知的でちょいセクシー、自立しているけど困っていたら助けてあげたい、新人の女子アナみたいな感じよ。いきなりエロに振らない方がいいし、おバカキャラも違うわね」
隣で男がうんうんと頷く。思い出した、こいつマネージャーだわ。あたしは長い髪をかき上げた。
「このふわふわパーマやめてストレートにしましょう。芸名も変えて。事務所に帰って作戦練らなきゃ。昔のファンを掘り起こして新規のファンを掴んで、男どもに夢と希望を与えて金を搾り取るわよ。どうせあたしなんて賞味期限短いんだから」
「よく言ったミキュちゃん」
マネージャーのサムズアップ。
「心配してたんだよー、君がいつまでも夢見る少女のようで。もう大丈夫だね」
「あら、夢見る少年は嫌いじゃないわよ。見ているだけで恋心を募らせるなんて可愛いじゃない。いいコだったわ、実在するなら会ってもいいわね。成長してお金持ちになってるとか」