小説

『夢見るような恋をして』裏木戸夕暮(『おめでたき人』)

「あっはっは、そう都合良く行かないさ。まぁお仕事頑張ろうよ、君ならいい人捕まえられるって」

 ミキュミキュはピョンとベッドから飛び降りて、軽やかにヒールで闊歩する。後ろ姿には自分を商品と割り切った覚悟とプライドが輝いていた。純真無垢なアイドルはもう居ない。
 マネージャーはVRサービスセンターの会計をする。
「データの入ったチップはお持ち帰りされますか?」
 受付の女性が訊いた。
「いや、処分で」
 女性がカウンターに設置されたディスポーザーにチップを放り込むと、小さな破砕音がした。
「待ってよミキュちゃん、タクシー呼ぶから」
 地味な風貌のマネージャーが彼女の後を追う。一瞬だけ振り返る。破砕音が胸に響く。

 さよなら俺の十年の恋。

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