小説

『僕らはみんな』笹木結城(カチカチ山)』

桝山さんが話し始めた夢は僕が見ている夢と同じ時代だろう。着物を着ていて和室がある今よりもずっと昔の風景。

「姉は、悪い老夫婦に騙されて殺された。兄はそれが許せなくて、しばらくしてから仇をとるの。村の人からは歓迎されていたけれど、老夫婦が住んでいた村からは殺人犯として認識されてしまって……最終的に、殺されるの。かちかち山と同じ方法で、勇敢なヒーローに、やっつけられるの」

夢の話だよ、最後にその言葉を付け足した枡山さんの瞳には涙があふれていた。もしも僕の夢と枡山さんの夢が全く同じ世界の別視点だとしたら、枡山さんにとっての「ウサギ」は彼で「タヌキ」は僕だ。ウサギをヒーロー、タヌキを悪とするならば。

「最近じゃカメラアプリで顔の系統を見られるでしょう?」
「……ごめん、僕、疎いからわからない」
「あ、そう?いろいろ進化しているんだよ。いくつに見えるとか、どの動物に似ているかとか、どんなメイクが似合うとか。クラスの子と撮り合いっこして遊んでいたらさ、タヌキ顔って出てきたんだ。妙に納得しちゃったよ。ほら、私、いい具合にタレ目だし」

目じりをトントンと叩きながら微笑んだ顔を見れば言わんとしていることは理解できた。だからタヌキの夢を見るとでも言いたいのかは、わからないけれど。

「僕は……僕は、前世の記憶だと思っているんだ。デジャブと同じ類の物じゃないかなって」
「……うん」
「同じ夢を何度も見る。たった一度じゃない、何度もだ。背景も結末も、醒める場所だって同じだ。それを単なる偶然で片すのはあまりにも不自然で……。前世の過ちを見せられているんじゃないかって、僕は思っている」
「奇遇だね。私もそう思っているよ」

ふっと息を吐きだした桝山さんが真っ直ぐに僕を見た。少し下がった目じりは確かに愛らしいけれど、瞳は相当に力強かった。

「もしも本当にこの夢が前世だとしたら、私たちの知っているかちかち山は実話だったってことになる。それも、“向こうの村”から見た偏った物語。酷い話だとは思うけどさ、今でも“そういう文化”が残っている節はあるよ」

カバンから出された週刊誌を置いて、表紙を指でつついた。図書館に置かれているはずがないから、大方コンビニで買ったのだろう。

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