床の上に転がった鍵を拾い、大きな箱に向かう。馬場はさっそく箱を開けることにした。鍵を差し込んで回す。カチリと小気味よい音が鳴る。重たい蓋を持ち上げる。毒ガスは発生しない。大きな箱には、札束が詰まっていた。
「こいつは凄い。何億もあるな……」
そう呟くと、ガラスの向こうから声がした。
「約束通りその金はくれてやろう。好きに使うが良い」
「ありがとうございます。さて、さっさとここから出してください」
「いいや、出さない」
「は? 約束を破る気ですか?」
老紳士は首を横に振った。
「私は現金の入った箱が当たりと言ったかね?」
「ふざけんな。毒の入った箱が当りとでも言うんですか」
再び、老紳士が首を横に振る。
「そんな卑怯な答えではない。当たりの箱を開けられたならば、生きたまま解放してやるつもりでいたよ。私はフェアなゲームを心掛けた。だが、君は答えに気付けなかった。やはりお前は頭の回らぬただの愚か者だ。私は一度も、箱は二つだけ、とは言っていないだろ」
脳裏に揺れる鍵の映像が浮かぶ。老紳士が鍵束を見せつけてきた時、そこにはいくつの鍵がぶら下がっていた。
「まさか……」
馬場は、今更ながら自身の行く末を想い、小さく身を震わせた。もし想像通りの答えならば、札束しかないこの部屋で、飢えて朽ちることとなる。
そんな動揺する馬場の姿を見つめながら、老紳士は瓶の蓋に手を掛けた。そして、嘲笑うようにこう告げた。
「当たりの箱は、そのコンテナルームだよ」