「金はデスクの上。服とカバンはあそこ。新しいシャツと下着も入れといた。サービスだ」
男は部屋の隅にある紙袋を指さした。
「シャワー、先に浴びるか?」
俺は首を振った。
「足がないなら、朝までいてもいいよ」
男が浴室に消える。水音が聞こえてきた。
熱い。どうしようもなく熱い。
ぶすぶすと燻ぶりつづける身に、ぽっと火が灯る。火が舌先でちろちろと俺を舐めていく。
ライターを手に取った。幾度となく男が触れていた銀色のライター。重量のあるそれを胸に押しあてる。
時間切れだ。
俺は、どうしたらいいんだ。
昏い感情の澱が、心のひだから滲みだしてくる。
地獄なら知っている。なら、いっそ業火に包まれてみるか。火焔の中で俺が悶え死ぬ様を見せつける。そうすれば死の瞬間を逃さないために、あの男は瞬きもせず俺を見つめるだろう。
ライターの蓋を開けた。火をつける。小さな炎は頼りなく揺れつづけた。
「……あの人は、もう俺を見ない」
無意識に発した自分の言葉が、耳に届いた。
愕然とする。
骨が軋むほど強く、ライターを胸に押しつける。黒く焼け焦げた身を持てあましたまま、俺はただ立ちつくしていた。