小説

『焦がす』伍花望(『八百屋お七』(東京)『地獄変(京都)』)

 ライトの熱は想像以上だった。体の奥が、ちり、と熱を持った。擦ったマッチの先で突かれたような……違う。錯覚だ。俺はまた、夢とも現実ともつかないところにいる。感覚が消失していく。自分がなにをしてるのかさえわからない。
 スポットライトが消え、我に返った。
 男がカーテンを開ける。窓の外が見えた。夜の名残を消し去りながら、陽が昇ってくるところだった。
「こっちこい。そこに座れ」
 俺は窓際にいき、座りこむ。火照った体に冷たい床が気持ちよかった。
「膝、抱えて。顔は伏せて」
 そのまま、俺は眠ってしまったようだ。
 気がつくと、完全に昼間だった。体は毛布にくるまれている。視線をさまよわせ男を探すが、姿はない。
 立ち上がり、毛布を肩に掛けたままうろうろした。デスクの上には吸い殻がたまった灰皿と、銀色のライター。とりあえず床にあったペットボトルで十分に喉を潤してから、ベッドにダイブした。一瞬後には意識が途切れていた。
 目覚めたとき、真っ先に視界に入ったのは男の姿だった。俺はほっとする。男はベッドの脇にイスを置いて座っていた。相変わらず手が動いている。
「よく寝てたな」
「……あんたは、寝ないの」
「いまはな」
 この男が眠るところは想像できない。
「腹が減っただろう。飯、買ってきたから」
 頷いて、起き上がる。
 デスクの上にコンビニの袋が置いてあった。弁当と飲み物が入っている。俺は床に座りこんで弁当を食べはじめた。
「ほらよ」男が毛布を掛けてくれた。
「サンキュー」と言いながら、俺はそれを体に巻きつけた。
 部屋には時計がない。三時くらいかな、と見当をつける。ということは――。
 あと、九時間か。
 そう思ったとたん、箸が止まった。

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