優太は今頃、どこか遠くに逃げているはずだ。
「失礼します。藤堂さん、検査の結果、特に異常はなかったので、すぐに退院できますよ」
看護師さんが病室に入ってきて、にこやかに言う。
「わかりました。ありがとうございます」
もう二度と会わないであろう元彼のことを頭から追い出し、軽く頭を下げる。
退院すれば、すぐに仕事に復帰だ。きっと噂好きの先輩に事件のことを根掘り葉掘り聞かれるだろう。
そのことを少し憂鬱に思いながらも、私は日常に戻るべく退院の準備を始めるのだ。ほんの一瞬の非日常に別れを告げて。