「みんなほんなこつあいがとう。お礼も何もできんが。感謝んしようもなか・・・」
誰からか樽酒が振る舞われた。たき火がおこされ、乾杯の声があちこちであがる。
そして弥助とチヨの元にも、炊きあがったコメや木の実、果物などが存分にふるまわれた。
何も食べていなかった弥助とチヨは喉を鳴らして腹いっぱい食べた。
すると。
遠くから弥助の名を呼ぶ声が聞こえた。
「弥助様~!大変ですばい!きてくんしゃい!田んぼが・・」
小次郎が大きな声を出して、田んぼの方から弥助を呼んでいた。
「まだ大蛇ん呪いが残っとーとかもしれん」弥助とチヨは慌てて小次郎の元に走った。
そして足元の田んぼに松明をかざすと、水がたまっていた。
「あれ、ここは今朝は水がなかったばい」
よく見れば、遠くの小川から、丁寧に溝が彫られていて、小川の水がなみなみと田の方へ流れている。
さらに松明をかざすと、乾ききっていた半分の田んぼすべてに、水がためられていたのだ。
弥助はいつの間にか行われた大工事を目の前にして、キツネにつままれた顔をした。
「なんちゅうことや・・・」
「あ、お父ちゃん、あれ・・・」
大勢の作業者たちが、遠く列をなして、山の茂みへと次々と分け入っていく。
最後の一人がこちらを振り向いて小さく頭を下げた。
そして、ポン、と少しだけジャンプした。
すると、ふわふわした大きな尻尾のようなものが見え、まるで吸い込まれるように、山の奥の暗闇へと消えていった。