小説

『そう願って、わたしも』小山ラム子(『継子の機織り(沖縄県)』)

 機織りの最初と、終わるときの部分は難しいからといって継子にさせ、織りやすくなった真ん中は自分の子どもに織らせた母。難しい箇所をやらされていた継子の織った部分はきれいではなく、簡単な真ん中を織っていた実の子の部分はきれい。それで、「もう二人とも上手になったから」といって各々で織らせてみると、いつも難しい箇所をやっていた継子は簡単な真ん中にくると、とても上手にすらすらと織った。いつも簡単な箇所をやっていた実の子は最初の難しいところができない。
 そして母は思うのだ。
『教え方をまちがえた』と。
 ぱたん、と本を閉じる。ぽっかりと穴が空いた棚の部分に本を戻す。
 どくどくと鳴る心臓の音を聞きながら図書館を出た。冷房のきいた館内から一変、灼熱の太陽が容赦なく紫外線を浴びせてくる。
 でも、今はこのくらいの熱がちょうどよかった。
 底冷えするようなお腹の奥を太陽の熱であたためてほしかった。

「おかえり」
 帰ってきて早々、見たくもない顔に出迎えられた。
 日光を浴びても黒くならずに白に戻る姉のピンクがかった肌色に、アイスブルーのトップスとライトグレーのパンツはよく似合っていた。
「外、暑かったでしょ」
「ああ、うん」
「レモネード作ったんだ。冷蔵庫にあるから勝手に飲んで」
「ああ、うん」
 姉の顔を見ないままでその横を通りすぎ、洗面所で手を洗ってから冷蔵庫を開ける。姉が言っていたレモネードらしきものは見慣れないガラスの瓶の中に入っていた。それには手を出さずに、隣にある麦茶に手を伸ばす。
 冷えた麦茶が喉を通ってお腹に届く。お腹の奥がまたもや冷えていくけれど、もうとっくに冷え切っているのは分かっていたし、これは太陽だとか冷たい麦茶だとかでは左右されない温度だということも分かっていた。
「あ、冷蔵庫にあるレモネード飲んだ?」
 かけられた声に驚いて振り向くと、そこにいたのは母だった。
「そのレモネードね、昨日お母さんが熱中症っぽくなったのを見て葵が作ってくれたの。レモンのすっぱさとハチミツの甘さが丁度よくておいしかったよ」
「ああ、そうなんだ。お姉ちゃんやさしいね」
 心にもない言葉がするりと出る。そんな自分に身震いしそうになった。
「まだ飲んでないんだ。今麦茶飲んじゃったから、また後でいただこうかな」
「うん。おやつのときにでも飲みな」
「そうだね。そうする」
 二階にいって荷物を放り出すようにして部屋の片隅に投げてから冷房のスイッチをいれた。そのままベッドに横になる。じっとりと汗がまとわりつくのが不快ですぐに起き上がった。

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