するすると人ごみを抜けると、真ん中で人が倒れており、その周りで脂っこい連中が何やらぎゃあぎゃあ喚いている。
なんだつまらんじゃないか、とその場を立ち去ろうとする若旦那だが、ジョン・ドゥの姿を目にした途端、一気に血の気が引く。
それは、若旦那のクローンであった。
若旦那は、朝起きてすぐ遊びに行きたくなった。だが、店の者たちの目もある。思案した挙句、倉庫にしまってあった自分のクローンに留守をさせることにした。留守といっても日中は、店の奥の事務室で居眠りさせているだけ。
準備が済むと、さっさと遊びに出かけた。
意気揚々の帰り道のはずであったのに。
「なんでここにこいつが……」
若旦那が前で出ると、全員が顔を睨んでくる。
「やいやい」年輩で血の気が多そうな男が、若旦那の前に立つ。「なんだ、お兄さん」
「いやね、この行き倒れは、私のクローンではないかとね」
「なに!」警官が声を荒げる。「たしかに、そっくりだ!」
「つーことは」年配者が顔を近づけてくる。「お兄さんもクマなのかい?」
「クマ?」若旦那は顔をゆがめた。「私は動物ではないですよ、大丈夫ですか、おやじさん」
どう考えても、自分は熊ではない。
「なぁんだと! クマは、お前の隣にいる男だ」
「へ?」確かに隣には、熊っぽい大柄な髭男が立ってはいるが、若旦那は自分に似ているとは到底思えない。「全く知らぬお方ですし。私やこの倒れているのは、どうやってもこの人のクローンではないような……。似ても似つかぬというか」
「ふざけんなぃ。てめえはクマの『クローン』じゃねえよ。俺はよ、お前がクマかどうかを聞いてんだ」
意味不明だ。若旦那は、若干恐怖を感じていた。
議論の前提がおかしい。
「間違いなく、クマではないです」
「ふん、いよいよわからんぞ」
年配者は腕を組み考え事を始めてしまう。
「それで」警官が若旦那に近寄る。「どうしてあなたのクローンがこんな場所に?」
「いやあ、どうしてでしょうかね?」
若旦那には心当たりがあった。昨年手に入れたクローンだが、モグリの製造業者に手を回して興味本位で作らせたものだった。ブレイン・マシン・インターフェースでの記憶の移管もせずに、今朝まで倉庫にしまったまま。
勝手に歩き出してしまった可能性は大いにあり得る。
警官は目つきを険しくして、若旦那へ身を寄せる。「無許可でのクローンの製造や保持は違法とされておりますが……」
「いやあ」若旦那はするりするりと警官から距離を取る。
「ちょっと待って、身分証のご提示を……」
「いやあ。そのお」