小説

『大阪アルプス』香久山ゆみ(『天保山の故事(大阪)』)

 人に頼るのは苦手だ。情けなくて恥ずかしい。恐る恐る震える声でぼそぼそと悩みを零す。先輩はうん、そうか、とぜんぶ聞いてくれた。
 ひとしきり聞き終えた先輩は、「大丈夫や!」と一笑した。おれがついとるから、一緒に頑張ろうな。と。
 いつの間にか太陽はすっかり沈んで、対岸のビル群が宝石箱のような夜景を浮かべていた。
「それで、次はどこ行こか?」
 帰り道、しきりに次回を楽しみにしている先輩。今度同僚とのリモート飲み会に誘ってもらった手前、連れて行かないわけにもいくまい。
「次は、大阪市最高峰を計画しています」
「おお!」
 本当に楽しみそうな顔をする。私自身も同じ顔をしているのが分かる。ドキドキと鼓動は未だ整わない。毎日会社に行きたくないと思っていたのに、また会社に行く理由ができてしまった。あほや。でも、そんなあほな自分のこと、嫌いじゃないのだ。

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