アリスと化した自分の姿を鏡に映しながら、彼は背後に声をかけた。スリーサイズを測ってあつらえた、小林委員長お手製のエプロンワンピースだった。
背中のチャックを上げながら、委員長は答える。
「大丈夫です。アリスでさえあれば、奴には本と人間の区別すらつきません。バカですから」
確信に満ちた口調に、半信半疑の彼も、それ以上は何も言えなかった。
しかし、今なら断言できる。
「委員長の言ったことは本当だった……!」
事典の山から怪人が身を起こしかけた時、死角から飛び出す者がいた。
「六年前の恨みッ!」
小林委員長渾身のラリアットが、怪人をなぎ倒す。鬼の形相で敵をめった打ちにする彼女に、あちこちに潜んでいた委員たちが加勢する。
「この変態怪人ッ!」
「委員長に謝れッ!」
侵入者を袋叩きにする委員たちは、やがて、手ごたえがなくなったことに気づく。荒い息で辺りを見回すと、
「いた! 外へ逃げたぞ!」
一同が窓へ駆け寄ると、満身創痍の怪人は校門を飛び出し、ほうほうの体で逃げて行くところだった。
こうして、図書委員たちはアリスを守った。
「ごめんなさい。副委員長には、一番危険な、おとり役をさせてしまって……」
面目なさそうに詫びる委員長に、佐藤副委員長はにっこり笑う。
「いや、むしろ嬉しいですよ。アリスは無事だし、仮装はウケるし」
彼の手には、仮装大会の優勝トロフィーが握られていた。
「これからも、何かあったら僕たちを頼って下さい。いつでも力になりますから」
「そうですよ、委員長!」
「隠しごとなんて、水臭いぜ!」
仲間の頼もしい言葉に囲まれる委員長。彼女の瞳には光るものがあった。
「皆さん……」
感極まった声が、図書室に広がる。
……さっき暴れた時にめちゃくちゃになった書庫。あれの片付け、どうしよう……。
目に涙を浮かべながら、委員長は言い出しかねていた。