小説

『八歳の親孝行』戸佐淳史(『親孝行息子』)

 きっと、啓太と雄介くんは親友なんだろう。お互いの家での悩みも言い合えるぐらいの。
 だから雄介くんは今日、啓太を頼った。
 そして啓太も、普段から雄介くんを頼りにしていた。自分の悩みを雄介くんに話していた。なかなか父親である自分と過ごす時間が得られないことを。

 気付くともう自宅に着いていた。バックで車庫に車を停め、エンジンを切って降りる。さあ、啓太が待っている。
「お帰り、パパ」
 玄関を開けると出迎えてくれた。持ち望んでいたかの様に、嬉しそうに自分を見ている。
 ぼうっとその姿を見つめていると、啓太が俺に近づいて手を引っ張った。
「? どうしたのパパ。もう晩御飯だよ。ママも待ってるよ。行こうよ」
 俺の知らない間に、啓太は悩みを相談し合える親友ができていた。
 俺の帰りが遅いことに駄々をこねなくなった。お仕事だから仕方ないと、考えるようになった。
 つまり、自分より周囲の人を気遣えるようになったってことだ。
 俺が八歳の時、そんなことを考えられただろうか。
 その時気付いた。これは紛れもなく、親孝行なんだろう。
「啓太、お兄ちゃんになったな」
 微笑みながら脈絡もなくそう言うと、啓太がきょとんとした。
 迷子の少年との出会いは、思いがけず息子の成長を気付かせてくれた。

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