小説

『土曜日の女神』ふるやりん(『金の斧、銀の斧』)

 母親のような優しさの溢れたカヨコさん言葉に彼女は、ありがとう。と頷いた。
「そうでした、こちら。お忘れにならないように」
 そう言ってカヨコさんが彼女に差し出したのは「夜の街」だった。彼女はなにも言わずに、カヨコさんの微笑みに応えるように笑った。
「見せたいもの、たくさんあるんです」
 僕は彼女の手を取った。振り向いた彼女は泣いてるのか笑っているのかわからない表情で、たぶん僕はこの美しさを絵に描けない。

 彼女の手を引きながら僕は言う。
「街を見に行きましょう。可愛い洋服着て、夜の街に繰り出すんです。きっと気に入りますから!」
 僕のセリフも芝居がかっていたのは、たぶんカヨコさんのせいだろう。
 彼女は「夜の街」を抱えながら僕の後ろで少女のように目を輝かせていた。これから僕は彼女のたくさんの表情を引き出したくて、いろんなところに連れ出すだろう。

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