小説

『夏の雪を買いに』若松慶一(『手袋を買いに』)

「お母ちゃん、お手々が冷たい。お手々がちんちんする。手袋ちょうだい」
 母さん狐は、急いで冬に坊やが人間の街で買ってきたふわふわの毛糸の手袋を、手袋よりさらにふわふわのお手々にはめてあげました。これで氷の入った器を持ってもお手々は冷たくありません。
「わあ、おかあちゃん。この雪、とっても冷たくて、甘くておいしいよ。お母ちゃんも食べなよ」
 子狐は手袋を付けた小さなお手々でかき氷を一つまみしました。母さん狐は、子狐の手のひらに乗った赤や緑の色のついた氷を、口に含みました。本当に、本当に、おいしい。
 坊やの体の熱は、かき氷を口に含むたびに、みるみる下がっていきます。
「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」

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