「与えられるべきものを、受けて生きているだけだ。僕はあのときだって、父さんに罰を与えられて生涯を過ごしたんだ。与えられ、何も奪われなかった。今回もそうさ」
「それがつまらないって言ってるんだよ。ああ、いっそ僕が兄で、兄さんが弟だったらよかったんだ。そうしたら、父さんが僕を評価したことで、兄さんが嫉妬なんてしなくてよかった。そう思わない?」
「お前はそうなのか?」
「うん、そうだと思うよ」
「それはお前がお前だからだ。僕だったら、どっちだって同じだったさ」
「そう?」
そうだ。と私は確信する。だって私は・・・・・
「あ、見えたよ兄さん」
そう言われて、私は立ち止まった。そこに見えたのは、この辺りで一番大きな木だった。
「ここだよ、兄さんが僕を殺して埋めた場所」
「ああ・・・そうだったな」
私は呟いて、弟は地面に埋めた筈なのに、なぜか木を見上げた。私はこの地で弟を殺し、嘘をつき、罰せられた。私は自分が弟の死体を埋めた場所を、とうとう誰にも告げることなく死んだ。それに反発するように、木は多きく育っていた。
「もう、百年にもなるんだよ」
弟が言った。百年。それほど経っても、いや、どれだけ経っても、兄に殺された弟が報われることなんてない。
「会いに来てくれたおかげで、思い出せたよ」
「いや、そうじゃなくて、もう、解放してくれないか?」
「え?」
「思い出そうが思い出すまいが、兄さんが呪いにかかってることに変わりはない。するとこやって、僕は引っぱられちゃうんだ。僕はね、もういいんだ。ただこの先、毎度毎度兄さんの様子を見に来なくちゃいけないことになるなんて、まっぴらだってこと。百年かけたんだから、もういいかげん終わりにしてくれないか?というお願いに来たんだよ」
「そんなこと言われても・・・」
「簡単さ。僕の赦しを受け入れてくれればいいんだ」
「そんなの無理だ」
「無理なことあるか。僕は兄さんの真実をもうすっかりご存じだよ」
「真実?」
「嘘の後ろの真実さ。だけどね兄さん、しょせん嘘も真実も同じだよ。真実が欲しい人間なんてそれ程いない。そうだろう?だからみんな嘘のつけない兄さんを避けるのさ。だけど嘘というものはそもそも存在しないし、真実だって、それを知っているということに価値があるだけだ。要は、嘘も真実も使いようだ。それぞれの捉え方次第」
「真実は一つだ。僕はお前を殺して埋めて、最後まで嘘でくるんで隠したんだ」