「はい、はい」
ユミコ先生といつものやりとりをした後、アカネちゃんとヤッちゃんと3人でマンションに向かう。
あの後、しばらく悶々とした日々が続いたけど、1週間前にヤッちゃんが再就職できてからは、昔のように楽しい帰宅時間になっていた。僕もアカネちゃんもホッとしたし、ニャン太のことでヤッちゃんに迷惑をかけたという後ろめたさも減った。
ニャン太の件があった後、お母さんとアカネちゃんのお母さんが色々動いてくれた。ニャン太は、猫が飼えるマンションに住んでいる、アカネちゃんのいとこの家に貰われて行った。僕はなかなかニャン太に会えなくなってしまったけど、アカネちゃんが写真をちょいちょい見せてくれるので、満足している。何より、ニャン太が元気に過ごしているのが嬉しかった。それと、お母さんたちがマンションの住民の署名を集めて、マンションの管理会社に事情を説明してくれたので、ヤッちゃんは、僕らのマンションの清掃員に復帰することもできた。
「ヤッちゃん、もう、わらしべ貧者になっちゃダメだよ」
ニャン太の件を思い出していたら、急にヤッちゃんに忠告したくなった。偉そうだとは思ったけど、相変わらず親切なヤッちゃんが心配だった。
ヤッちゃんはニコリと笑うと言った。
「ヤッちゃんは、わらしべ長者だよ。タッくん、アカネちゃんという小さな友達を手に入れた。それだけじゃない。タッくんやアカネちゃんのお母さんたち。マンションのみんな。そして、ニャン太。何にも持っていなかったヤッちゃんが、いつしか沢山の人に囲まれている。ヤッちゃんはわらしべ長者さ」
こんなにも自信満々のヤッちゃんを初めてみた気がした。
偉そうな忠告をしたことが恥ずかしくなって、「そうかもね」と、ヤッちゃんと反対側の空に顔を向けた。
ちょっと赤みがかった空がとても綺麗で、きっと明日もいい天気だなと思った。