小説

『きめにくいアヒルの子』室市雅則(『みにくいアヒルの子』)

「家の人も観に来るの? きっと喜んでくれるんじゃない。『み・に・く・い』アヒルの子の主役を娘がやるなんてさ?」
「そうだね。でも『う・つ・く・し・い』白鳥が最後は持っていくから微妙かなあ」
 二人の視線が火花を散らし、クラスは静まり返った。
「ホゲー! ホゲー! ホゲー!」
 静寂を切り裂く謎の音が外から聞こえた。一同は音がした方を向いた。窓際の列にいる中の一人、久保ちゃんが声を出した。
「白鳥だ!」
 その声に一同は窓際に駆け寄った。
 人工芝のグラウンドに一羽のオオハクチョウが歩いている。緑の中に白が映えて美しい。
「綺麗だね。こんな所に来るんだね」
 コハクの呟きに全員が頷いた。
「あーあ、あんな綺麗な白鳥の役ってのも荷が重いな」
 アミが満更でもなさそうな顔をしているのを花子は見逃さなかった。
何が『荷が重いだよ』。嬉しそうにしやがって。
「ホゲー! ホゲー! ホゲー!」
 白鳥は歩みを止め、左右を見渡した。
「可愛いー!」
 アミは己に声をかけるかのように白鳥を称えた。
 白鳥は首を?の形にすくめると、羽を少しだけ広げて、下から茶色いモノをメリメリと排泄した。
「ホゲー! ホゲー! ホゲー!」
 気持ち良さそうに白鳥は大空へと帰っていった。緑の中に茶色いモノは鎮座している。
 距離のある場所にいる一同でも、白鳥が何をし、何を残して行ったのかは分かった。
 アミが生唾を飲み込んだのも分かり、花子は言った。
「これで荷が軽くなったね」

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